あなたの願いを叶えましょう
「既婚者の梁川さんを駅のホームで口説いてたこと?」

「しっかり覚えてんじゃねえか」

私は否定も肯定もせずに、黒澤氏から視線を外し冷酒を一口飲む。

ふんわりとフルーティーな香りが鼻に抜けた。

「俺は何を言われたって構わない。だけど、自分のせいで梁川さんに迷惑を掛けるのは忍びない」

黒澤氏は長い睫毛を伏せグラスを握る手をじっと見つめる。

指先の丸っこい爪は短く切り揃えられていた。

「明日のランチのメインディッシュだったんだけどなぁ」

いつも取り澄ました黒澤波留が動揺する姿が私の嗜虐心をそそり、意地悪な事を言ってみる。

「下衆だな」

黒澤氏は吐き捨てるように言った。

その瞳は怒りの色がハッキリと浮かんでいる。

「嘘だよ。なにムキになってんの」

私はフンと鼻で笑う。

黒澤氏は形の良い唇をキュッと横に結ぶ。

その悔しそうな表情を見て私の胸が歓喜で震えた。
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