あなたの願いを叶えましょう
「だけど本気で好きな人だったら緊張する」

「じゃあ、梁川さんを口説く時は緊張してたってこと?」

黒澤氏は私の頭に手を置いたまま一瞬固まる。

そして何も答えずに私の頭をぐりぐり撫でて誤魔化した。

「だから、いいなぁと思った男がいたら、口説いていいよ、ってわかるように少しだけ、でも解りやすく隙を作ってやればいい」

「どうやって?」

私が鼻の頭に皺を寄せて尋ねると、黒澤氏は自分の隣の座席をポンポン叩く。

酔っぱらいの隣は嫌だな、と躊躇していると「そーゆー風にイチイチ意識するのが、とがしのモテナイポイントなんだよ」と指摘されたので重い腰を上げて移動する。

私が隣に座ると黒澤氏は椅子ごと側まで引き寄せた。

「あの…近いです」

何故か敬語だ。

「いいか?とがし、お前の考える隙とは何か取りあえず俺に見せてみろ」

「ばか…」

「願いを叶えるんだろ?」

黒澤氏は抗議を途中で遮ると、漆黒の瞳でじっと私を見つめる。

隙…すき…スキ…SUKI…

29年間生きてきてそんなことを真剣に考えた事なんて一度もなかった。

どうしよう。
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