あなたの願いを叶えましょう
黒澤波留は私を本気にさせてしまったようだ。

私は髪を掻き上げて左の肩に流しうなじをチラ見せる。

「なんかこの店暑いね」

そして黒澤波留の太ももにそっと右手を添えた。

「そろそろ次行こっか」

そして上目で黒澤氏の顔を見上げる。

漆黒の瞳が微かに揺れた。

お…これはまさかの高得点?

黒澤氏はにこりと微笑む。

整った顔が近づいてきたと思ったら、私の唇に柔らかな感触が触れる。

あっという間の短いキスだった。

「うん、いいんじゃない?沙也香ちゃんよりそそられた」

「そっか!やった!」

思わぬお褒めの言葉にガッツポーズを作りかけてしまったけど、いやいや違う。そうじゃない。

「だけど、なんでキスするの?」

うーん、と暫し考えた後に「なんか、したくなっちゃった」悪びれなく言って黒澤波留はテヘッと笑う。

悔しいけどちょっと母性本能がくすぐられる。

「嫌だった?」

太ももに置かれたままの手を黒澤波留が上からギュッと握る。

「…そんな嫌じゃなかった」

顔が熱くなり私は目を伏せる。

ああ、なんとなく解った。

これがきっと隙なんだ。
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