あなたの願いを叶えましょう
会計を済ませて(約束通り黒澤氏の奢りだ)私達は店を出る。

黒澤波留は息を吸うのと同じくらい自然にするりと指をからませて来た。

こういう小慣れたしぐさも小憎らしい。

そして何故か手を繋ぎながら駅までの道を並んで歩く。

深夜の路上。

軒並みお店はクローズしていて歩く人の姿は殆ど見当たらない。

やばい…、と黒澤波留がボソリと呟いた。

「ちょっとドキドキしてる。とがし相手に」

「失礼ね」

なんて言いつつも、胸が高鳴っているのは私も同じ。

名前を呼ばれ振り向くと黒澤波留の漆黒の瞳と視線がぶつかった。

その目に見つめられると身動きが取れなくなる。

ゆっくりと綺麗な顔が近づいてきて、再び唇が重なる。

ほんのり甘いオレンジの味がした。

ふんわり柔らかな感触と唇から伝わる温もりが心地いい。

黒澤波留はきらい。

王子さまみたいな容姿をしているくせに腹黒くて辛辣で女たらし。

だけど、どうしてキスはこんなに気持ちいいのかな。

私も黒澤波留の甘い毒に侵されたみたい。

キスをしながらぼんやりとそんなことを考えていると、唇が名残惜しそうに離れていく。
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