聖獣王と千年の恋を
もうどこにいるのかわからない。相変わらず視界は真っ白で、翼のある猿はどこに向かっているのか見当もつかない。しっぽで巻き付かれているが、いつ緩んで落とされるか気が気ではないので、メイファンは腰に巻き付いたしっぽにしがみついていた。
湿気を含んだ風にさらされ、手足の先から体が徐々に冷えていく。しがみついているのもそろそろ限界だと思い始めた頃、猿は下降を始めた。
地上に降りられるとホッとしたのもつかの間、今度は別の不安に囚われた。この猿は明らかに魔獣だ。
魔獣の門を抱えたメイファンは、魔獣王の元へ連れて行かれるのかもしれない。それならとりあえず命の危険はなさそうだが、魔獣は人を傷つけたり喰らったりするらしい。
地上に降りたら自分の身がどうなるのか怖くなった。
メイファンが考え込んでいる間に、猿はどんどん降下し、やがてきれいに整備された石畳の道に降り立った。翼を畳んで、しっぽを巻き付けたメイファンを無造作に地面に降ろす。ただし、しっぽは巻き付いたままだ。メイファンはどうにかしっぽから逃れようと手で引っ張ったりしてみたが、ちっとも緩めることができなかった。
とりあえず食いつかれる心配はなさそうなので、諦めて辺りを見回す。といっても、相変わらず霧が濃くて遠くまでは見渡せない。足元のきれいな石畳はテンセイの物のような気がするが確証はない。少し先に目を向けて、そこに見覚えのある立て札が見えた。
「立ち入り禁止」と書かれた立て札は、紛れもなくテンセイの物だ。ということは、ここはテンセイの聖獣殿に通じる参道。
この魔獣はいったいどういうつもりでここにメイファンを連れてきたのだろう。それが気になって何気なく見上げる。するとうっかり目が合ってしまった。
何が気に障ったのか、猿は怒ったように甲高い奇声を発しながら、大きな手でメイファンの体を鷲掴みにした。そのままつかんだ手を上下に振り回す。
「いやぁ!」
巻き付いていたしっぽは離れたものの、これでは余計に身動きがとれない。かろうじて動く左手で腰に下げたジャオダンの剣を探る。
ところがそこにあるはずの剣がなくなっていた。いつ落としたのか、まったくわからない。