聖獣王と千年の恋を
聖獣が守護するガイアンは、聖なる山シェンザイを中心にぐるりと円を描くように山脈が取り囲んでいる。その山脈に魔獣の住む地との境界線があった。
その境界線を越えて、五百年前に一人の娘が魔獣の地に迷い込んだ。娘は魔獣の王チョンジーに捕らえられ、身の内に魔獣の門を開かれる。
本来魔獣たちは境界線を越えることができない。だが、ガイアンに属する人の中に魔獣の門が開けば、境界線を越えることができるのだ。
「今日のようにビャクレンに魔獣がなだれ込んだ。俺はチョンジーの元から逃れてきた娘を娶り門を閉じた」
「閉じた門がどうしてまた開いたの?」
メイファンが素朴な疑問を口にする。ワンリーがそれに答えた。
「おまえたち人間の命には限りがあるからだ。魔獣の門は娘の魂に開けられたものだ。門を宿した娘の魂が体を乗り換えるたびに門は復活する」
それを聞いてメイファンは思わず自分の体を抱きしめて身震いした。自覚はなかったが、ワンリーの言う通りだとすると、自分は生まれたときから体内に災いの種を抱えていたことになる。
だが今日までメイファンのいるビャクレンも、ガイアンの他の都もいたって平和だった。どうして魔獣たちは今日まで待っていたのだろう。
それが腑に落ちないので尋ねた。
「私が生まれたときに門が復活したなら、どうして魔獣たちは今日まで境界線を越えなかったのですか?」
「門を機能させるには霊力を必要とするんだ。それは門を宿した人の気力が源になっている。子どもは体力も気力も少ない。門を完全に機能させるには、人が生まれて二十年はかかる」
「それで今日なのね……」
「どういう意味だ?」
納得してうなずくメイファンに、ワンリーは不思議そうに首を傾げる。