聖獣王と千年の恋を
「助けてくれてありがとう」
そう言って頭をなでると、魔獣はメイファンの方に鼻を向けて目を細めた。クンと鼻を鳴らした次の瞬間、魔獣は崩れるようにその場に体を伏せる。投げ出した前足の間に頭を落として動かない。見ると、脇腹にジャオダンの剣が深々と突き刺さっていた。
「いやぁ! しっかりして!」
メイファンはひざをついて魔獣の体にすがりつく。
「メイファン、無事か!? そいつから離れろ!」
ワンリーの声に振り向いたメイファンは、目に涙を浮かべてフルフルと首を振った。空から降り立った金の麒麟はすぐに人の姿になってメイファンに駆け寄る。敵意を露わにしたワンリーにすがりついて、メイファンは押しとどめた。
「やめてください、ワンリー様。私は無事です。この魔獣は私を助けてくれたんです」
「魔獣が?」
「はい。でもジャオダン様にお借りした剣で刺されて大けがをしてるんです」
メイファンの話を聞いて落ち着きを取り戻したワンリーは、魔獣のそばにひざをついてのぞき込む。メイファンもその隣にひざをついた。
「おまえがやったわけじゃないんだな?」
「はい。話せば長くなるんですが、私が落とした剣を拾った人間に刺されました。助かりますか?」
目に涙を浮かべ、祈るような気持ちで尋ねるメイファンに、ワンリーは首を振る。
「聖剣でこれほどの深手を負っては無理だろう。じきに実体を維持できなくなる」
「そんな……」
とうとう涙があふれて頬を伝った。ワンリーはメイファンの頭を胸に抱き寄せ髪をなでる。
「死ぬわけじゃない。実体がなくなるだけだ。人に悪さもできなくなる」
「この魔獣は悪さなんかしません。おとなしくて優しくて、二度も私を助けてくれたんです」
「妬けるな。すっかり仲良くなったんだな。危なくなったら俺を呼べと言っただろう」
「ごめんなさい」
死ぬわけではないと聞いて、幾分ホッとする。けれどこの魔獣はシィアンに会えなくなるのだ。シィアンが人なのかはわからないけれど。
メイファンはワンリーから離れて涙を拭う。そして魔獣の頭をそっとなでた。すると、魔獣がピクリと体を震わせて少し頭を持ち上げた。薄く目を開きメイファンの方に顔を向ける。
「メイファン……」
ひとことつぶやいて目を細めたとき、魔獣の体は黒い靄へと変わり、やがて煙のようにかき消えた。