聖獣王と千年の恋を
「その体から出てこい、チョンジー!」
そう言ってガーランを切りつけた。虹色の雷に体を取り巻かれたガーランは、目を見開いてのけぞる。しかしすぐにその目は閉じられてその場にくず折れた。
石畳の上に倒れ伏したガーランの体から、黒い靄が滲み出す。靄はやがて人型となり、橙色の長い髪を振り乱した赤い瞳の青年が姿を現した。人型になったチョンジーだ。
雷聖剣によって陰の気を削られ、魔獣の本性を現すことはできないらしい。
チョンジーの姿を確認したワンリーは、すぐさま雷聖剣を振り下ろす。素早く身を屈めたチョンジーは、タオウーが落とした黒龍剣を拾ってそれを受け止めた。
剣を合わせたままふたりは睨み合う。
「門の娘は元々私のものだ。それをおまえは五百年にも渡って私から奪い続けた」
「おまえのものではない。誰のものでもないんだ。人には自由意志がある。俺は奪ったわけではない。娘たちはおまえの元に行くことを望んではいなかった」
それを聞いてチョンジーは鼻の先で笑った。
「なにを当たり前のことを。人の意志など尊重していては魔獣は滅びてしまうわ!」
怒鳴りながら剣を押し戻して、チョンジーは間合いを取る。再び切りかかってきたワンリーの剣をチョンジーはまた受け止めた。
直後、チョンジーの持つ黒龍剣がギシリとイヤな音を立てた。
「なにっ!?」
チョンジーが異変に気づいたときには、黒龍剣は真ん中から真っ二つに折れ、雷聖剣が彼の額を捉えていた。
虹色の雷に包まれて、足元から黒い靄へと変わっていくチョンジーが嘲笑う。
「私が消えても聖獣殿の結界は解けぬ。術者は自分が結界を支えていることを知らない。せいぜい探し回るがいい」
捨てぜりふを残して、チョンジーは消えていった。