聖獣王と千年の恋を

4.旅立ち




 両親とメイファンは言葉をなくす。前世の自分が麒麟の妻になることを疑問に思わなかったことを不思議に思っていたが、選択の余地がなかったということらしい。シェンザイから出られなくなるからだ。

 ワンリーはメイファンに会えたことも妻とすることも喜んでいるようには見える。けれどメイファンが彼を夫として愛せるかどうかは今のところわからない。
 でもたぶん、そんなことを理由に拒否することはできないような気もする。

 メイファンが考え込んでいると、父がポツリとつぶやいた。

「……いやだ」

 皆が注目する中で、父は今にもつかみかかりそうな勢いでワンリーに怒鳴る。

「聖獣様とはいえ、大切な娘を連れ去って聖域に閉じこめるなど、妻と言いながら体(てい)のいい人身御供(ひとみごくう)ではないか!」
「俺はメイファンを愛している。それではダメか?」
「さっき会ったばかりの者が言う口先だけの言葉など信用できるか!」
「あなた、落ち着いて」

 母になだめられて父は一旦口をつぐんだ。しかしワンリーを睨んで吐き捨てるように言う。

「世界の安寧より娘の幸せの方が俺には大切だ」

 父の気持ちは素直に嬉しい。けれど父の望む通りメイファンがこの場に残って魔獣の門をそのままにしたら、ガイアンは魔獣に蹂躙されてしまうだろう。「暗黒の百年」の再来だ。
 その原因がメイファンだと知れたら、自分だけでなく両親も幸せではいられない。

 メイファンは意を決して、父に微笑んだ。

「ありがとう、父さん。でも私はガイアンのみんなも幸せになってほしいの。私は幸せよ。ワンリー様は私を愛してくださってるんだもの。きっと大切にしてくださるわ」
「メイファン……」

 泣きながら抱きしめる父をメイファンも抱きしめ返す。泣いちゃダメだ。自分に言い聞かせながら。

< 16 / 147 >

この作品をシェア

pagetop