聖獣王と千年の恋を


「どうしておまえがこんな目に……」
「私は聖獣様の授かり子なんでしょ? だから聖獣様の元に帰るの。今まで育ててくれてありがとう。父さん、母さん」
「メイファン……」

 母もメイファンを抱きしめる。

「会えなくなるけど手紙を書くから。それくらいは許されるんでしょう?」

 メイファンが振り返って尋ねると、ワンリーは大きくうなずいた。

「あぁ。もちろんだ」

 それを聞いてメイファンはホッとする。人との絆が完全に断ち切られてしまうわけではないようだ。
 母がメイファンから離れ、父を促してメイファンを解放する。
 力なくうなだれた父の前にワンリーが進み出た。気付いて顔を上げた父に深々と頭を下げる。

「すまないが、メイファンをもらい受ける。必ず幸せにすることをそなたに誓おう」

 聖獣王が頭(こうべ)を垂れる姿に父は一瞬目を見張ったが、すぐに決まり悪そうに顔をそむけてけんか腰に言った。

「あ、当たり前だ。大事な一人娘をくれてやるんだ。ガイアンから魔獣を追い出して娘を幸せにしなけりゃ許さないからな」
「あいわかった」

 父の無礼な物言いにもワンリーは微かに笑みを浮かべて大きくうなずく。そして再びメイファンの手を取った。

「じゃあ、行くから。元気でね。父さん、母さん」
「ちょっと待って、メイファン」

 挨拶をするメイファンを母が引き止める。母は戸棚の引き出しから小さな巾着袋を取り出して戻ってきた。それをメイファンに差し出す。

「これを持って行って」

 メイファンは受け取った巾着袋を袋の上から触ってみた。少し重みのある丸くて堅い石のようなものが入っている。

「これはなに?」
「聖獣様のお守りよ。おまえを桃の木の下で見つけたとき、産着の中に一緒にくるまれてたの。きっとおまえを守ってくれるわ」
「ありがとう」

 ワンリーと一緒に両親に別れを告げて、メイファンは家を出た。外に出て、二度と帰って来られない住み慣れた家を振り返る。玄関では両親が見送りに立っていた。
 笑顔で両親に大きく手を振って背を向ける。あとはもう二度と振り返らずに聖獣殿へと急いだ。


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