聖獣王と千年の恋を
少しして気持ちの落ち着いたメイファンは、涙を拭って立ち上がる。ワンリーも立ち上がり、心配そうに顔をのぞき込んだ。
「大丈夫か?」
「はい。覚悟はできました」
「そうか。では急ごう」
先に立って歩き始めたワンリーの後を追って、メイファンは聖獣殿に向かう。白い石造りの門が見えてきたとき、ワンリーはメイファンの手を握った。
見上げるメイファンの唇に指先を当てて言葉を制する。
「聖獣の加護が完了するまでしゃべるな。今俺とおまえは人と同じ場所にいながら、人とは違う空間にいる。人に俺たちの姿は見えていないのだ。俺の手を離すな」
メイファンは黙ってうなずいた。そのままメイファンの手を引いて、ワンリーは門をくぐる。聖獣殿の敷地内は明日の祭りに備えて赤や黄色の提灯や旗で飾られ、その支度で集まっていた人に加えて魔獣から避難してきた人々でごった返していた。
だが誰一人としてメイファンには目もくれない。メイファンはともかく、金の髪と金の瞳という派手な容姿のワンリーにさえ。違う空間にいるというのは本当なんだと悟った。
くねくねと人をよけながら本殿に向かう。石造りの土台の上に立てられた本殿はバイフーを象徴する白色で統一されていた。
石段を数段上って太い柱に挟まれた入り口を入ると、天井の高い本殿の広大な空間には大きな供物台がひとつ置かれている。台の上にはメイファンの収穫した桃や様々な野菜、果物、魚などがたくさん供えられていた。