聖獣王と千年の恋を
ようやくワンリーは立ち止まって辺りに目を向けた。ちらほらと街道を行き交う人がワンリーを珍しそうに見ている。それに気付いたようだ。
「なるほど。皆おまえと同じように黒髪だな。人の世界に来ることは滅多にないから気付かなかった」
「おわかりいただけましたか」
メイファンがホッと息をつき視線を向けると、ワンリーの髪と瞳はすでに黒くなっていた。驚いて見つめるメイファンにワンリーはニッと微笑む。
「これでよいか?」
「は、はい」
こんな突然変わってしまって、誰にも見られなかっただろうか。あわてて周りを見回したが、幸い近くに人はいなかった。なんだか色々疲れる。そんなことはおかまいなしに、ワンリーはメイファンを促す。
「では行くとしよう」
「はい」
再び手を引かれて歩き始めたメイファンは、ふと疑問に思った。門を閉じるためにシェンザイに行かなければならないことは理解した。そのために各地の守護聖獣を訪ねなければならないことも。けれどその旅に王であるワンリーが直々に同行するのがわからない。
こんなとき王は城にいて家臣に警護を命じるものではないだろうか。理由を尋ねるとワンリーは握ったメイファンの手を口元に当てて軽く口づけた。
「おまえと一緒にいたいからだ。おまえは俺が自分の手で守りたい」
「え……」
いやいや、ガイアンの危機に守護聖獣の王が、そんな恋愛脳じゃまずいだろうと不安になる。それを露わにしたメイファンの表情に、ワンリーはクスリと笑った。
「まぁ、それも事実ではあるが、おまえを狙っているのがチョンジーだからだ」
「さっき会った翼のある虎のような魔獣ですね」
「そうだ。あいつは魔獣の王だ。俺にしか退けることができない」
なるほど。魔獣たちにしてみれば、長年待ってこの先何十年も人の世界に出入り自由になるかどうかの瀬戸際だから、王自ら先頭に立っているのだろう。
聖獣王でなければ太刀打ちできない強大な魔獣に付け狙われていると思うと、メイファンは思わず身震いした。