聖獣王と千年の恋を
ワンリーの目が一瞬メイファンと合う。次の瞬間大剣が打ちつけられた雷聖剣からギシッとイヤな音が響いた。タオウーがニヤリと笑ってもう一度思い切り剣を打ちつける。
「もう、おせぇ!」
その時、メイファンの目に映る時の流れが、亀の歩みのように遅くなった。
大剣を受け止めた雷聖剣が真ん中からポキリと折れ、そのまま姿を消す。支えを失った大剣は惰性でそのままワンリーの頭を捉えようとしていた。
「ワンリー様ぁ!」
結界を越えてメイファンがワンリーに手を伸ばす。すると、腰にくくりつけていた聖獣のお守りからまばゆい光が発した。
聖なる光はあたりを真っ白に染め、あまりの眩しさに皆目を閉じる。タオウーは大剣を持った腕で目を覆った。
やがてゆっくりと収束していく光の中で、ワンリーとメイファンは目を開いた。
「くそぅ、目が見えねぇ!」
タオウーは未だに目を押さえたままうめいている。聖なる光は魔獣にはより大きな打撃を与えるらしい。
素早くメイファンの元に駆けつけたワンリーは、いきなりメイファンを背負って麒麟の姿に戻った。
「すぐにここを離れるぞ」
そう言って一気に空高く舞い上がる。メイファンはワンリーのたてがみにしがみついて下を見下ろした。
庵の残骸の真ん中では、タオウーがまだ目を押さえてうつむいている。ワンリーの結界が解けたようで、壊れた庵の周りに人が集まり始めていた。その一角で、今までどこにいたのか、ガーランがこちらを見上げている。メイファンと目が合った彼は薄笑いを浮かべたように見えた。
背筋にゾクリと悪寒が走って、メイファンはあわてて目を逸らす。たてがみに頬を寄せて一層しがみついた。
「ワンリー様がご無事でよかった。どこへ向かうのですか?」
「ロショクだ」
「え? テンセイの加護は受けないんですか?」
「後回しにする。雷聖剣がなければ呪詛結界を張っている術師の陰の気を祓うことができない。先にロショクの加護を受けて対策を練る」
「わかりました」
ワンリーは進路を北西にとって、そのまま空を滑るように駆けていく。ほとんど振動を感じない。麒麟の背は馬の背よりもずいぶんと乗り心地がいいのだろうとメイファンは思った。