泉の恋
(1) 片思い

梅雨なのに雨が降らない。

このままだと、7月には夜間断水ね、とお母さんが言った。

今日も、空はきっぱり晴れている。
視界も大気もクリアな朝だ。

いつものように、私は彼の背中を見つめて登校する。

朝日を浴びた彼の背中は、白銀色に輝いてまぶしい。
まるで生まれたての恒星みたい。

そして、私は彼の周りを巡る青い月になる。

そんな想像で頭をいっぱいにするだけで幸せ。
誰にもわからないように、小さく微笑む。

ふと気が付けば、彼の背中が遥か遠くになっていた。

制服姿の彼が校門をくぐって校舎の中に消えて行く。

私はあせって足を早める。

右足を、ちゃんともち上げたつもりだった。
なのにアスファルトのほんのちょっとのデコボコにひっかかり、

そのままあっけなく転んだ。

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