泉の恋

私がイジメを受け始めたのは、小学校５年のころからだった。
きっかけはよく覚えている。

ある日、学校の授業で植えたキュウリの芽を、ひとりの男子が隠れて抜いているのを目撃してしまった。

そいつは私に見られていることに気付くと、
「誰にも言うなよ。言ったらコロスゾ！」と脅した。

キュウリのためにコロサレルなんて割に合わない。
私は誰にもその事を言わなかった。

けれど、翌日、その男子は先生に呼び出されこっぴどく叱られた。
「このチクリヤロー！死ねっ！！」
男子は怒りに顔を真っ赤に染めて、私に向かって叫んだ。

その日から、私はイジメの的になった。

本当に私はチクってなんかない。
別の誰かが見ていて、先生に報告したんだと思う。
でも、そんな言い訳は通じなかった。

いじめの理由なんて、いじめる側にはどうでもいい。
いじめたいからいじめてるだけ。

そのことがわかった頃から、私はそれまでずっとショートだった髪の毛を伸ばし始めた。
伸びた髪で自分の表情を隠すためだった。

「貞子だ！」
そう言って、クラスメイトたちは私を気持ち悪がった。