お嬢様 × 御曹司

なに…それ。


私は知らない。


「でも、そんなのたけくんにはわからない…」


「だから、あいつは自信がなかったんだよ。聖夜に好きだって思ってもらえる自身が。それに…」


ゆうちゃんは悲しそうに話す。


「『だって、俺なんかじゃ聖夜と釣り合わないし、聖夜に恥をかかせるだけですから。』って、そう言ったんだよ。悲しそうにそう言って笑ったんだよ！だから私、『そんなこと…』って返した。」


…うそ。


私はてっきり、その時私の嫌いなところを言ってるのかと思ってた。


…じゃあ、なに？


今までの全部、私の勘違いだったの？


私の勘違いでたけくんもゆうちゃんも困らせてたの？


「それに、」


ゆうちゃんは私の肩を掴んで私の顔を上げさせた。


ちゃんと、前を見させるように。


「武士が女の子を呼び捨てするのね、私初めて聞いたの。あいつ、部活内じゃ結構人気あるんだけど…でもどの女子にも苗字にさんずけ。下の名前なんてもってのほかだし、呼び捨てなんてもっとない。」


そう、なんだ。


それを聞いて不安が頭をよぎった。


でも、ゆうちゃんのことは…勇輝先輩って。


その気持ちを察したようにゆうちゃんは言葉を放つ。


「あのねぇ、私はひとつ上の兄がいて、剣道部の部長やってたの！苗字が渡辺（わたなべ）でどっちか区別つかなかったから、仕方なく私のことは勇輝先輩って呼びますねって武士言ってきた！」


私の肩を揺さぶって話すゆうちゃんは、いつも以上にかっこいい。


「仕方なくって行ったんだよあいつ！この私に！」


自虐ネタを入れるゆうちゃん。


私を、元気づけてくれてるのがわかる。


一息ついて落ち着くと、優しい声で私に言った。


「気づいてあげて。武士は自分の身分が聖夜より低いと思ってる。だから、聖夜に好かれることはないとも思ってる。」


そんなこと…そんなことないのに。


私は、たけくんが大好きなのに。


他でもない、君だけを見てるのに。


続けてゆうちゃんは言葉を連ねた。


「最近は会社見学…つまり武士の仕事が忙しくなって、聖夜に会えないからって、私に遊びに誘ってあげてくれってLINEしてきたほどだよ？」


「どれだけ過保護よ…」とゆうちゃんが呟く。


「それにね！」


真っ直ぐなゆうちゃんの瞳が、私を見つめる。


「武士は聖夜しか見てないから、自信持って。武士、聖夜に嫌われたんじゃないかって1ヶ月ずっと落ち込んでたんだから。」


「最後に…」と言って、ゆうちゃんは私の方から手を離した。


無意識流れた私の涙を見ながら。


「武士が女の子に向かってあんな笑顔を向けるのも、初詣に誘うのも、私、初めて見たんだから。」


その時のゆうちゃんの笑顔が、今でも忘れられない。


私はその笑顔に勇気ずけられた。


でも、今となればわかる。


そのゆうちゃんの笑顔が、少しだけ泣いているように見えたことが。