お嬢様 × 御曹司
「…聖夜。」


名前を呼ばれて顔を上げる。


たけくんの顔は、悲しい笑顔で満ちていた。


その顔が、ふっとなくなる。


たけくんが頭を下げたのだと理解するまでに数秒を要した。


「ごめん。」


何に対しての謝罪だかわからず、私はおろおろ。


「…2日の日、何か嫌な思いをさせてしまってたなら謝る。それに、1ヶ月も連絡しなくて、ごめん。」


「それは…」


ゆうちゃんに聞いたから大丈夫だよ。


と続けられなかった。


そういうことじゃないだろう、たけくんがいいたいのは。


「謝っても許せないことなら、許さなくていい。ただ、また休みの日に誘ってもらえたのは嬉しかった。けど、大道寺家の分際で、聖夜に関わりすぎた。本当にごめ…」


-バン!


私は木のテーブルを両手で叩き立ち上がる。


その音と行動に、たけくんも驚いたように顔を上げる。


「違う!」


私はそう叫んだ。


冷たい風が頬を伝い、何かが流れていく。


あぁ、私は泣いてるんだ。


たけくんをここまで追い詰めてしまったこと、そして、たけくんが誤っていることに対して。


「たけくんが私に謝ることなんかない。それと、私はたけくんのこと嫌いじゃないよ?」


その言葉を聞いた瞬間、たけくんの目が大きく開かれる。


ゆうちゃんの、言った通りだった。


「さっき言った、大道寺家の分際って、なに?じゃあ、たけくんは私が日野原家の人間だから近づいたの?」


「違う!そんなことない!」


今度はたけくんが大声を上げる番。


この公園には他に人がおらず、木々たちだけが私たちを見守る。


「俺は…」


そう言って言葉に詰まるたけくん。


無意識に、自分の立場から、言葉を制限しちゃってるんだって、今、わかった。


だったらその無意義の制限、私が取っ払ってやる。


「たけくんだって否定してくれたじゃない?私が日野原家の人間だから関わったんじゃないって。私だって一緒だよ!」


「聖夜…」


「たけくんだから!たけくんだから知りたいと思った、関わりたいと思った。ご令嬢だからとか、おぼっちゃまだからとか、身分がどうだとか、そんなの関係ないんだよ!」


あぁもう、こんな形で言うことになるなんて思ってなかったよ。


でも、言う時は、相手の目を、まっすぐに見て。


自分の言葉で伝えるんだ。
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