お嬢様 × 御曹司
-ミーンミンミンミン…
-ミーンミンミンミン…


-ジーーーー
-ジーーーー


夏の終わり、たけくんとのいわゆる遠出デートに向かうため、私はいろいろとバックに詰め込んで、花と家を出た。


結局、同伴の執事は聖。


この時期いろいろと忙しい兄には陸がつくことになった。


「ごめん。せっかく休みだったのに。」


「滅相もございません。私はまだまだ未熟でして…たくさんのことを学ばせていただきたいのです。ですからその機会が増えただけですから、お気になさらず。」


そう執事の顔で言った聖は、少し顔を赤らめてから、「それと…」と続ける。


明らかに高校生の顔だと思う。


「彼女とは2学期まで合わない約束でしたし、昨日出掛けさせていただきましたから、大丈夫です。」


…いちゃついてるなぁ、もう。


この家カップル祭りじゃん。


まあ、兄さんまでとはいかないけど、聖もかなり女の子と付き合うのは下手な方で。


だからちゃんと好きな彼女ができたって聞いたとき、結構驚いたんだよね。


その彼女とデートしてきたんなら、あんな笑顔になるのも無理ない、か。


「よろしくね。」


そう玄関で話していると、黒く光るたかそうな車が門の前に止まる。


運転席から執事らしい男の人が出てきて、後ろのドアを開け、たけくんが姿をあらわす。


「おはようございます。大道寺武士と申します。この後はこちらで仕切らせていただきます。執事様やメイド様の仕事の詳細は、こちらにおります臼井(うすい)よりお話があります。それでは、よろしくお願い申し上げます。」


花と聖が息を呑むほど、たけくんの挨拶はお手本のようにすらすらと流れた。


私はそれを右から左に聞き流して、久しぶりのたけくんを見つめてたんだけど、そんな素振りは見せない。


だって、恥ずかしいじゃない。


「5日間、大道寺家にお世話になります。日野原財閥次女の日野原聖夜と申します。この度はよろしくお願い申し上げます。」


たけくんが大道寺財閥を代表して言うように、私も日野原財閥を代表して挨拶をする。


決まりではないけれど、こういう時の決まり文句というやつだ。


私は自分の荷物を車まで運ぶ。


花と聖は臼井様から説明を受けている。


「手伝うよ。」


たけくんはそう言って、花と聖の荷物を車まで運んでくれた。


私は一つ持つだけでも重いのに…どこにそんな力があるのやら。


荷物を積むために荷台を開けて、また気がついた。


「…背、伸びたね。」


前はもう少し低かったたけくんの目線が、高くなっている。


え、この前会ったのって1週間前ぐらい…。


成長期の男の子ってこんなにわかりやすくのびるワケ?


私なんか、中学に入って身長止まったっていうのに。


そんなこんな考えているうちに、たけくんは荷物を全て積んでくれた。


「ありがとう。」


「いいよ。力仕事は男の仕事だろ?」


こういうところも男前!


とは、なかなか言えない。


好きはいくらでも言えるんですけどね〜。


臼井様をはじめとする執事一同何戻ってきたので、私たちも車に乗り込む。


運転席に臼井様。


助手席に聖(いろいろ教えてもらうらしい)。


後ろの席に座る私たちと同席するのは、花。


たけくんが車のドアを開けてくれる。


「お入りくださいませ、お嬢様。」


執事風にいうたけくんに思わず胸が高鳴る。


からかわれてるのはわかってるのにドキドキしてしまう私にイラつく。


そして、たけくんは意地悪そうに笑うんだから。


「ありがとう。」


乗り込んだ後ろの席は、真ん中にテーブルがあり、それを囲むようにソファのような椅子が置いてある。


うちの車にもよくあるやつだけど、ここまで綺麗に整備するのは難しいらしい。


いやいやさすが、大道寺財閥。


適当な席に腰掛けると、たけくんも乗り込んできた。


「飲み物もあるから、飲みたかったら声かけて。」


「武士様、それは私の仕事でございます。」


最後に乗り込んで扉を閉めた花が宣言する。


たけくんは苦笑い。


運転席との間にはカーテンで仕切ってあり、臼井様がカーテンをずらして話しかけた。


「…それでは参ります。」


車は動いてるかどうかもわからないほど丁寧に走り出した。


隣に座ったたけくんが不意に恋人つなぎをしてきて、私の顔が真っ赤になってしまったのは、言うまでもない。
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