お嬢様 × 御曹司
なんの前触れもなく『脱走』という言葉を発せられて、たけくんはなんの話をしているのか理解ができないようだった。


目がキョトンとして、口は、「あ、え?…んっと、え?」などと、体の動きとマッチしてはいるが意味は不明だ。


「だから、脱走だよ。脱走。」


たけくんの思考回路に追い討ちをかけるようにいいな放つ私。


もちろん周りには聞かれないようにはしてるけどね。


たけくんは一瞬かたまり、「ふぅ。」と一息ついて目を閉じた。


やっと理解できたのか、顎に手を添えて目を開く。


「聖夜は、この会場の外に出たいって言ってるの?」


確認するために聞いたんだろう。


ええっと、脱走だから、多分そうなるね。


あ、でも私が考えてるのは家出するとか大げさなことじゃなくて、ただ、今日の1日だけこの会場の外に出て、遊んでみたいな〜ってこと。


そういえば、ちかくに公園があるんだよね。


そこに数時間だけ自由を求めたっていいじゃないか。


「なんか、すんごい屁理屈だね。今の聖夜の考え方。」


「たけくんだって、ここのところずーっとパーティーに参加して、疲れてない?」


苦笑いの顔から一変、ギクって効果音が聞こえそうなほどたけくんは顔を引きつらせた。


それから持っていたお皿とグラスをおいて、私の腕を引っ張り恥の方へ移動する。


「聖夜。自分が何言ってるのか、わかってる?」


呆れ顔で私に言った言葉を聞いて、返す言葉がいでてこなかった。


「分かってる。とっても危険なことだとも分かってるつもり。でも…」


なんとか反論するものの、これじゃあまるで駄々っ子だ。


「たけくんとなら、大丈夫な気がしたから。」なんて、口に出せなかった。


今になって反省。


思い返せば私、何言ってんだろう?


脱走なんて、そんなことダメに決まってるのに…。


答えはもう決まってる。


潔く諦めよう。


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