お嬢様 × 御曹司
「どうかされましたか?聖夜様。武士様。」


-ギクッ!


こそこそ話していた私たちはピシッと姿勢を正して、話しかけてきたガードマンを見る。


私は苦笑いを隠せなかったけど、たけくんは笑って、ポケットからスマートフォンを取り出した。


「兄がパーティに出席する予定だったのですが、まだきていないらしく…電話しようとしたのですが、会場では電波が悪くて…」


たけくんは、ちらっと私を見て、ガードマンに口元を見せないようにして、「スマホ」と呟いた。


スマホを出せってことだよね?


私も慌てて…でもガードマンには慌てた態度を見せずに…スマホを取り出した。


「聖夜様もお兄様の誠様に電話をしたいとのことでしたので、ご一緒して電波の届くところを探していたのですが…入り口に来ても電波がととかず、なやんでいたところなんです。」


「そうでしたか。」


うまい。


たけくんの会話術、身振り手振りと感情の表し方。


ガードマンは完全に騙された。


「でしたら、会場の外に出て電話をかけてみてはいかがですか?」


「え⁈会場の外に出ても構わないのですか?」


本当に驚いたのか、演技で驚いたのか、今の私ではわからない。


私も、ガードマンの申し出には驚かされた。


でも、ガードマンはたけくんの態度を不審がることもなく、


「構いませんよ。僕らの見える範囲でしたら。」


なーんて笑顔で言った。


「それはありがたいです。では、お言葉に甘えて。」


たけくんは45度のお辞儀をし、私に手を差し伸べた。


大道寺財閥と日野原財閥の関係を誤解されては困る。


ガードマンの前では、きちんとした対応をどちらも取らなくては。


それは、会話をしなくとも、たけくんと意思疎通できた。


「えぇ。では参りましょう。」


私も精一杯お嬢様らしく、言い放ち、まっすぐ前を向いたまま、彼の手を取った。


私が彼に、エスコートされてるように。
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