お嬢様 × 御曹司
そう言って、犯人は引き金を引いた。


たけくん!


心配のあまりたけくんに視線を移す。


驚くことにたけくんはすんなり弾丸をかわして、森様の懐に入り込み、拳銃を落とした。


犯人が拳銃を拾おうとしたので、私が拳銃を蹴飛ばす。


その隙だらけの体型になった犯人の胸倉を掴み、持ち上げる。


「せいやっ!」


そう言って勢いをつけ、一気に床に叩きつける。


素人目にもわかる、綺麗な一本背負だった。


「ガハッ!」


完全に伸びきった森さん。


投げ飛ばした彼は、見たことのない形相で森様を睨みつけている。


だけど、動かない森様を見て、一息つくと、私の方へ駆け寄ってきた。


「大丈夫⁈」


すぐに口のガムテープをとって、腕も解いてくれる。


遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。


執事さんが電話したんだろう。


「はぁ。ありがとう。助けてくれて。」


可愛げがないな…と思う。


泣いたりしたらいいのに、人の前だと強がってしまう。


今ではもう、花の前でも、兄さんの前でも、もちろん両親の前でも泣けなくなった。


そんな私の無理をしている笑顔を察したかのように、彼は苦しそうな顔をする。


なんで、あなたがそんな顔をするの?


「怖かっただろ?」


「こ、怖くなんかなかった。」


たけくんは、ゆっくりと、私の手を握る。


「酷いこと、言われなかったか?」


「…言われなかった。だ、大丈夫だから!」
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