お嬢様 × 御曹司
たけくんは、叫ぶように怒鳴った私の肩を掴む。


私は顔を上げる。


たけくんは、優しく笑った。


パーティ会場で見た、あの笑顔で。


そうして、肩を引き寄せ、私を抱きしめる。


「震えてる。」


たけくんに抱きしめられて体全体が震えていることに、気が付いた。


たけくんが暖かい。


温もりが、心地いい。


「怖かっただろ?誘拐されて…。誘拐になれる奴なんでいないだろ?強がるなよ。」


私は、たけくんの肩に顔を埋めた。


どうしてわかってくれるの、私の気持ち。


どうして伝わっちゃうかな?


怖かったんだよ、私。


誰にも言えなかったけど、怖かったんだよ。


「俺の前では泣いていいんだよ。俺はそんな君を笑わない。だから、無理するな。」


ぽんぽんと私の頭を叩くたけくん。


自然と、我慢していた涙が一気に溢れ出した。


「う…うぅ…」


「聖夜は強がりなんだから。」


私は初めて同い年の子の前で泣いた。


家族の前でもメイドの前でも執事の前でも泣かない私が、なんでたけくんの前だとするなり涙を流せるのだろう。


恥ずかしいとか思ってたけど、たけくんの前で泣くのは、恥ずかしくなかった。
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