お嬢様 × 御曹司
「お会計……円になります。」


会計をしてくれたのは、ゆうちゃんだった。


「ちょっと武士金払っといて。聖夜、LINE交換しよう!」


たけくんを睨みつけながら放った言葉には棘が感じられた。


私を呼ぶ声は、誰が聞こうと女の子の声だ。


「ぜひ!」


私とゆうちゃんはLINEを交換した。


初めて加わった、友達のアカウント。


ホーム画面もアイコンも剣道で、アカウント名も『勇輝』だから、はたから見たら男の子だなぁと思い笑う。


その考えが伝わったのか、不腰ふてくされながらゆうちゃんは「いいじゃん!」とそっぽを向いた。


「じゃあ、また後でね?」


立ち直りが早く、そういいウィンクしたゆうちゃん。


私は外で待っていることにした。


-カランカラン…


「あんないいね、あんなに可愛い彼女がいて。」


外にも、中の話し声が聞こえた。


レジと外はすぐそこだから、偶然聞こえる位置だったんだろうけど。


悪いとは思いながら、耳を立てる。


たけくんは、なんて返事をするんだろうと、心を躍らせながら。


「…彼女じゃないですよ。第一、好きじゃありませんから。」


…え?


予想外の言葉を聞いて、私は頭を殴られたような感覚になった。


「だって………………………………だから。」


肝心なところは、風の音で聞き取れなかった。


「そんなこと…」


ゆうちゃんも絶句しているのがわかる。


…なんだ、私、自惚れてたんじゃん。


たけくんが初詣に誘ったのも、好きな人がいるって言ったのも、全部私だと思ってた。


これじゃまるで、自画自賛。


私は単なる思い上がったナルシスト。


たけくんはずっと、私を友達としてしか見ていなかったんだ。


「ありがとうございました。」


ドアが開く音を聞いて、私はたけくんを振り返った。


ん?と言いたげに首をかしげたたけくん。


その顔を見て、私は無理やり笑顔を作る。


私がこんなことで悲しんでいる場合じゃないんだから。


「行こっか、聖夜。」


「うん。」
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