お嬢様 × 御曹司
場面はすぐに入れ替わり、私はホテルの
ある部屋の前に立っている。


事件が起きたのは、修学旅行の時だ。


その扉を開けちゃダメ。


そう思うのに、もう過去のことであるから、体は少しだけ扉を開けてしまう。


それは、仲のいい女の子の部屋だった。


一人一部屋が普通の修学旅行だったから、私は彼女に行くことを告げずに彼女の部屋に来た。


驚かせようと、音を立てずに扉を開けたのが、いけなかった。


「聖夜が日野原の子じゃなかったら、私絶対優しくできなかったわ!」


メイドに髪を溶かされながら、椅子の上で足をバタつかせ、ルンルンと言いそうな勢いで言い放った。


メイドも悪いといった様子はなく、「そうですね。」とまで相槌をうった。


その顔も、ひどく嬉しそうだ。


「可愛くもないのにちやほやされて…私のことを親友だと思ってるのよ?こっちは日野原の子だから優しくしてやってるだけなのにね?可哀想な子。」


小学6年生だった私は、ひどく傷つき、もう一人の仲の良かった男の子の部屋へ駆け出した。


彼ならきっと、慰めてくれる。


そう思ったから。


でも、彼の早に行く途中、かれと彼の執事が歩いているところに出くわして、思わず隠れる。


彼も執事もこちらに気がついていないまま話す。


「聖夜ちゃんは、僕を友達だと思ってるんだって。」


それまで、一つ年下の男の子のように可愛い声を出していた彼とは比べものにならほど低い声が出て、驚いた。


一瞬にしてわかった。


これが本当の彼なんだと。


「バカだよねぇ、聖夜ちゃん。日野原の子じゃなかったら、あんなやつと友達なんかになりゃしないさ。」


また、日野原の子、日野原の子って…


幼い心が傷つけられていく中で、彼の言葉がとどめを刺した。


「聖夜ちゃんは本当に、可哀想なお姫様だ。」


私の頬を、一筋の涙がつたる。


私に近づいてくる人はみんな、日野原に近づきたい人なのだと、この時やっとわかった。


つまり私は、誰からも必要とされていないのだ。
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