「君へ」 ~一冊から始まる物語~
私は何となく聞いてみた。
「あぁ。1度だけ聞いたことがある。確か...」
私は次の唯都の言葉に思わず立ち止まってしまった。
「玲波?」
やっぱり春稀は...
「ううん。何でもない。」
私はまた、唯都に隠し事をしてしまった。
「あんまり溜め込むなよ。」
唯都もそれだけ言って深く聞いて来なかった。
『稀(まれ)さんだった気がする。』
そう言った唯都の言葉が頭から離れない。
春に亡くなった稀さん。
春稀はそういう意味なんだろうか。
私は気になって一睡も出来なかった。