「君へ」 ~一冊から始まる物語~
俺と兄貴が青兄を追ってT字路付近を走っていると嫌な音が聞こえた。
キキードン
車のブレーキ音と何が何かにぶつかった音だった。
俺達が慌てて駆けつけるとそこには血まみれでぐったりしている青兄と、恐らくその青兄の血で染まって泣き叫ぶ玲波がいた。
「玲波!青波!」
俺はその時初めて冷静さを失った兄貴を見た。
「救急車を!!!」
兄貴か叫んだ。
すると慌てて青兄をひいた運転手が電話をかけた。
玲波はずっと泣き叫んでいた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、ねえ起きてよ!」
ほどなくして遠くから救急車の音がした。
すると急に玲波が立ち、その場を走り去ってしまった。
「玲波!!!!!」
そんな俺の呼びかけにも振り向きもせず走っていった。
「くそ!また変な事考えてんじゃないだろな!」
俺は嫌な予感しかしなかったので玲波を追おうとした。
そんな俺の腕を生暖かい何かが包んだ。
振り返ると虫の息となっている青兄だった。
「青兄、動いちゃ駄目だよ!」
「唯いいか...今から俺が言うこと...よく聞くんだ...」
「喋っちゃ駄目だって!」
「いいんだもう...時間がない...あの子は…春が良く似合うんだ...」
「青波喋るな!」
兄貴も叫んだ。
「頼む...最後に...喋らしてくれ...都...」
必死に目で頼む青兄に兄貴は唇を噛みしめて俯いた。
「頼む...唯が...あの子を...綺麗で稀少な春に...連れていってくれ...」
「最近青兄お願いばっか。」
俺は泣いていたのだろう。
自分の声が震えていた。
「そうだな...でも...これが...最後だ...」
「最後なんて言わないでよ!死ぬなよ!」
「唯...人間...誰にも...死は…嫌でも...訪れる...それが早いか...遅いか...の...違いだ...」
「俺...は...幸せ...だった...今...まで...あり...がとう...都...唯...」
そう言って青兄は俺の腕の中で力尽きた。
でもまだ息はあった。