「君へ」 ~一冊から始まる物語~



私が隙間から見たのは、それはそれは本を大事そうに抱えている唯都の姿だった。

その唯都が抱えている本は私と春稀の大事な本だった。

私は唯都に見つかったという焦りが半端なかったが、次の瞬間その焦りは吹き飛んだ。

唯都が机に座って私の春稀への手紙を読みながら手紙を書いていたからだ。

私は目の前で起こっていることが理解出来なかった。

まさにその姿勢は俺が春稀だと言わんばかりだった。


仮に春稀が唯都ならいろいろ説明がつく。


本が私の過去に似ていること。
私と同じ悩みを抱えていること。
すぐ自分を責めるような考えをすること。
手紙の字を見たことがあること。
唯都を呼び捨てにすること。


どれをとっても唯都と一致する。

しかし説明がつかないのもあった。


衿基会長が見せてくれた名簿の字が似ていること。唯都と兄妹ということに驚いていたこと。
夛成来先輩を呼び捨てにしていたこと。


私はその場を逃げる様にして去った。

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