「君へ」 ~一冊から始まる物語~
「ただいま。」
恐る恐る家のドアを開けると唯都の声は聞こえなかった。
唯都が帰ってくる前に荷物を詰めて出ようとした。
荷物を詰め終わって、家のドアノブに手をかけようとしたらドアノブが独りでに動いた。
そして外の世界と繋がった。
「あっ」
「あっ」
私たちは出会ってしまった。
「家出か?」
唯都は不思議そうに聞いてきた。
「違うの。晴の所に泊まるの。」
私は唯都といつも目を見て話すのに今日は目が合わせられなかった。
「ふーん。気をつけて。」
「行ってきます。」
私はそう言い捨てると、一目散に家を出た。
そして2駅ほど離れた晴の家に向かった。