「君へ」 ~一冊から始まる物語~
「玲波青波が引かれた時、川に飛び込んだのは憶えてるな?」
「うん。」
「溺れている玲波を助けたのは実は唯都なんだ。
唯都は玲波と同じ所から飛び込んだ、その時岩で切ったらしいんだ。」
私は言葉を失った。
「玲波と一緒に救急車で病院に行ったんだけどな、何しろ夜中だから麻酔医が1人しかいなかったんだ。その麻酔医は青波のほうに行っていた。
唯都は麻酔無しで13針も縫ったんだ。」
私の頬には雫が落ちた。
「絶対痛い筈なのにアイツは叫びも暴れも泣きすらしなかった。アイツは『玲波はこれより痛い思いをいてたんだ。こんな痛み玲波より全然マシだ。』って言ったんだ。俺は心底アイツが誇らしく思
えた。」
視界がぼやけて、料理をするどころじゃなかった。
「今日は俺が作るよ」
と言った都兄に今日は甘えた。