「君へ」 ~一冊から始まる物語~
都兄との約束の19時。私たちが正門の前に行くと都兄はまだだった。
都兄は今年から大学生になり、いつも遅くに帰ってくる。
今日の19時だってギリギリだろう。
それは私も唯都も承知のうえだ。
「ごめん。待った??」
「ううん。今きたばかりだよ。」
「あぁ」
「ありがとう。じゃあいくか」
私は唯都の自転車の荷台に乗って唯都の腰に手をまわした。
1年ぶりの唯都の背中はとてつもなく広く感じた。
そこが兄が亡くなってから私の定位置だ。
そしてこの日だけ私たちのためか夜遅くまでやってくれている近所の花屋にむかった。
全く同じ日に全く同じ花をもう5年も買い続けているので、お店にいくと、もうお目当ての花が用意してあった。
花は都兄が買った。
私はその年の人気の小説、唯都はキャンドルと毎年買うものが決まっている。
「ありがとうございました。」
優しい花屋の店員さんの声を背に私たちは店を出た。