「君へ」 ~一冊から始まる物語~
「ちょっ、痛いよ玲波。」
私は唯都の言葉にも耳を傾けず、旧図書室に入り、周りに人がいないことを確認した。
もちろんいる訳ないのだが、確認しないと私の気が収まらなかった。
年のためカーテンも全て閉め、外部からの視線を全てシャットアウトした。
「何で勝手に妹だって行っちゃうの?!私の、私の過去の次に知られたくなかったのに...」
そう言って自分の瞳から落ちた雫をみて、自分が泣いていることに初めて気がついた。
そして唯都は驚いた顔をしてから、みんなに見せた笑顔とは違う、前に私だけに見せてくれた優しい笑顔で私を抱きしめた。
「ごめん玲波。俺、お前の兄貴という立場でしかお前を守れないんだ。カッコ悪くてごめん。」
私は首を精一杯横に振った。
「本当は凄い怖かった。殴られるんじゃないかと思った。」
私は久しぶりに弱音というものをはいた気がした。
「俺もビックリした。というより、焦った。 だから間に合ってよかった。」
唯都は心底安心したようにまた笑った。
「でも今回はお手柄だったな。」
「お、お手柄??」
「あの3人、自分に邪魔な存在はとことん排除していくから、生徒会も前から目をつけていたんだ。
でもなかなかしっぽが掴めなくて...でも、玲波のお陰で証拠を突きつけることが出来た。ありがとな。」
唯都は喋りながらもまだ涙が止まらない私を優しく抱きしめてくれていた。
「私の方こそ助けてくれてありがとう。」
いつの間にか唯都の温もりで涙は止まっていた。
「でも私あの人を投げ飛ばしたよ?」
「その位いいだろ。それに投げ飛ばしたのは玲波じゃない、青兄だろ?」
唯都に言われて、私もすんなりそうだねと認めてしまった。
そんな訳ないのに...
でもきっと唯都も私の事を思って言ってくれたことだと思うから今はその優しさに甘えておくことにした。