「君へ」 ~一冊から始まる物語~
「えっ??」
「すみません、お客様。」
都兄の声が旅館で響き渡った。
同時に都兄にペコペコ頭を下げている女将もいた。
「どうしたの都兄?」
私がそう聞くと都兄はバツが悪そうに頭をかきながら答えてくれた。
「部屋を2つ頼んだはずなんだけど、なんかの手違いで1部屋しか取ってなかったんだ。」
今の世の中は夏休み真っ盛り。
空き部屋がない事ぐらい想像がつく。
「私は別にいいよ?」
それに部屋を2個も取ったらお金も倍になる。
「いや、その、なんだな。」
珍しく都兄の歯切れが悪い。
「俺達と同じ部屋で布団を敷いて寝るんだぞ。」
そういったのは唯都だった。
「別に兄妹なんだから問題ないじゃん。」
「あのなー」
唯都が何か言いかけた時、
「玲波がいいならいいけど。」
都兄が言葉をさえぎるように言った。
そう言って私たちは部屋に案内された。
私は都兄たちの気持ちに全く気がついてなかった。