「君へ」 ~一冊から始まる物語~
「なぁ。まだ起きてる?」
「うん。私は起きてるよ。」
私は緊張のあまりなかなか寝られなかった。
「兄貴は返事がないから寝てそうだな。」
都兄は必死に私の方を向かないでくれているのだろう。
「なぁ玲波。」
「ん?」
「お前の夢は俺達に恩返しすることなんか?」
私は唯都に言ったことはないはずなのにと驚いた顔をした。
「ごめん、前雨宮に話してるの聞いちゃって。」
唯都は申し訳なさそうに言ってくれた。
「別にいいよ。うーんそれもあるかな?」
「えっ?」
「もちろん唯都たちに恩返ししたいってのもあるけど、今の私の将来の夢はお兄ちゃんの夢でもあったんだ。」
唯都たちはお兄ちゃんの夢を知らなかった。
「私がかわりに叶えてあげたいの。」
そう言うと、布団の上から私を唯都が抱きしめた。