ばかって言う君が好き。

Nov


 渡辺先輩と向かい合わせ、私達は神妙な面持ちで見つめあう。
場所は第2会議室、私達のほかに誰もいない。

「……先輩。」

「……。」
 彼は何も言わず、私の肩に触れた。私は顔を伏せて、ぎゅっと目をつむる。

「リンリン――企画採用!」

「本当ですか!?」
 私は勢いよく伏せていた顔をあげた。

そう、この日は部長から企画が採用かどうかを伝えられる日。だから、電気もつけていない会議室に私は先輩に呼び出されていた。

「うん!よく頑張ったな。」

「先輩と企画できたからです!」
 あーでもないこーでもないとお互いの頑張りを譲り合いながら、笑いあう私達。

「あとはこの資料、部長に渡すだけだな。」

「そうですね。」
 先輩はデスクの上に置いていた、資料を手に取った。

「リンリン、お疲れさま。」

「お疲れさまでした!」
 私は会議室を出ようと、ドアノブに手をかけた。


「あ、リンリン。」

「はい。」
 振り返って先輩を見る。 

「よかったら今日飲み行かない?」

「あー……。」
 どうしようかな。私はドアノブから手を放した。

確か今日も直人、夜飲み会だったっけ。だったら、少しぐらいならいいかな。

でも直人、どう思うかな。居酒屋にしても男の人と二人だし、しかも渡辺先輩って――。

「……神沢さんが嫌がるかな…?」
 苦笑しながら先輩は、私の顔色をのぞいた。

「いや…。」
 先輩に考えていたことがばれてしまっているようで、私も苦笑してしまう。

「…1時間ぐらいでもいいですか?」
 1時間なら、大丈夫だよね?

「全然いいよ!大歓迎、俺も短い時間だけのつもりだったし。
じゃあ、また帰りに声かける!」

「はい。」
 会議室をでて、デスクに戻って時間を確認すると、もうお昼の休憩時間に入っていた。私は彼に連絡をすぐ送る。

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