ばかって言う君が好き。
Dec
目が覚めると布団の中にいたのは私だけで、腕の中にいたはずの彼はいなくなっていた。
寝室の扉は半分ほど開いていて、リビングから聞こえてくるのは、一定のリズムの時計の音だけ。
他にはなにも生活音がしない。
私は上半身だけ起き上がると、ベッドの隅に置いた携帯を探した。
そしてすぐにそれが無駄なことだと気付く。
昨日の私に、携帯のことを気にするほどの余裕はなかったんだった。たぶんまだ鞄の中にいれっ放しだ。
体を起こすと、私はリビングを覗き見るようにして入った。
探しているくせにどういう表情で会えばいいか分からなかった。やっぱりそこに彼がいないことを不安がってるくせに。
床に放っていたかばんを探って、携帯を取り出した。
9時48分。
彼が休日に起きて、出かけるにしては早すぎる時間帯。
私は携帯を胸に抱いて、玄関を見に行った。靴はいなくなっていた。
もしかして…
そして気が付く。
リビングに戻った、テーブルの上に伏せられてあるメモに。
何か書いてあるはず。
昨日はなかった。
私は手を伸ばす。
だけど、ひっくり返すことはできない。
もしかして、もしかして……
心に広がっていくマイナスな感情。
考え始めると止まらない、悪循環。
それでもこれを見なきゃ、彼がどこにいったか分からない。これを見なきゃ、彼がいつまでも帰ってこない、気がする。
「大丈夫、大丈夫。」
自分に何度も言い聞かせて、何度も何度も深呼吸して、
私は意を決して、ぺらりとめくった――――…