ばかって言う君が好き。
Jan
どこかの大きなお寺が、テレビに映し出されていた。今か今かとその時を待ちわびながら、境内に列をなしている大勢の参拝客。
ついこの間この光景見なかったっけ、思わず私はそう思ってしまった。
年を取るたびに、1年の訪れが早く感じるのはうそではないのかもしれない。
「倫子あと1分!」
隣に座る直人がわくわくした様子でそういった。さっきから1分過ぎるたびにそう教えてくれる。
「はいはい。」
彼の様子がおかしくて、私は正直1分過ぎることより彼の様子に興味深々。
彼が毎年年が開けるたびに、私より早く「おめでとう」と連絡してくれる理由が分かった気がした。
ゴーン、一際大きな鐘の音がなった。
「あけましておめでとう。」
「おめでとう。今年もよろしくね。」
私達は、テーブルの前に座って、お酒が入った陶器のおちょこで乾杯した。
この日の為に買った少し値の張るおちょこ。
コン―――鈍い音が響くとともに、テレビの中の参拝客の声が大きくなる。
明けたことを喜んでいるようで、落ち着いていた中継の様子も、少しぎやかさが増す。
「一緒に年越せるなんて。」
毎年この日は実家に帰って家族で過ごしてたのに、そう思いながらも
「今年は二人で過ごさない?」
と言って誘ってくれた、彼のやさしさに溺れたからこそ出た言葉だった。
「…嬉しいの?」
これが年を越しての彼のはじめてのからかい。
新たな一年が始まるたびに、
「あ、これ今年になってはじめてのことだ」、
そう思ってしまうのはなぜなのだろう。
でもとりあえず、それは今年になってはじめてのからかい。
私はいつも飲むお酒よりも度数が強いからか、もう酔いが回ってきたみたいで、
「嬉しいっていったら?」
そんないつもなら言わないことを、困らせると分かって彼に上目遣いでせまった。
「う、うれしいよ。」
一気にぐいっとお酒を飲みほす彼。私から目線を外そうとする直人は、かなり動揺しているみたい。
「嬉しんだ?」
私は構わず再び彼に近づいた。
彼はやはりいたたまれないようで、頭をガシガシかいて、
「……倫子はたまに小悪魔だよね」
なんて。
「そう?」
「そうですー。」
「ごめんなさーい。」
くすくすと笑う私達。
はじめての年越しは、少し意地悪な私と動揺したあなた。
来年もこうして、笑いながら彼と過ごすのだろうか。彼と過ごすお正月が、当たり前になっていくのだろうか。
彼と再び乾杯しながら、私は彼との未来に思いをはせた。