ばかって言う君が好き。

 しかし途中、彼はドアの前で立ち止まって

「なあなあ。」

「何?」

「俺のパンツ洗うの嫌じゃないの?」
 唐突にそう切り返した彼に、彼女は吹き出すように笑った。

「なんで嫌なのよ。同棲始めたときからずっと洗ってきたんですけど。」

「まあそうだよね~。」

「そうだよ。」
 変なのとくすくす笑う。

「じゃあさ。」

「なーに?」
 時計の音だけがチッチと音を立てる。


「これからも俺のパンツ洗ってくれますか。」


 一瞬驚いた彼女の表情。そこから視点は彼女の口元に移動すると、ふわっと緩んでドラマを終わった。


「あー、このセリフね!思い出した!
二人が好きなお笑い芸人のネタのセリフなんだったっけ?」

「そうそう。二人らしいよなあ。」

「本当だね。」
 最後の奈良漬を私は食べてしまう。

「倫子?」
 ドラマを見ていた時と同じ真剣な表情の彼。

「何?」
 上ずる私の声。

えっとえっと、このタイミングで?
ドラマに触発されて、もしかしてもしかして…

直人、直人、まさかまさか

「俺のパンツずっと洗ってくれる?」
 想像していた通りの言葉。ドラマで彼が彼女に告げたセリフ。

でも違うのは…


「もう緊張して損した!そんな笑いながら言って!」
 私は彼の肩を軽めにたたいて、感情をぶつけた。

「ごめんごめん。」
 反省してるのかしてないのか、彼は変わらずふざけた調子でそう言う。

「ドキドキした?」

「してました。」
 なんて言えるはずもなく。

「してないですー。」
 って言って、私はごまかすように視線をよそに向けた。

「したくせにー。」
 彼はねえねえと私の肩をツンツン何度も何度も懲りずに。

「もううるさいよ!」
 耐えきれなくなった私は笑いながら、彼を見た。

「したの?」

「もう!したよ、ばか。」
 私は彼に抱き付いた。

「…可愛すぎかよ。」
 今度は彼が照れたみたいで。

ドキドキした?と今度は私が彼をからかい始めた。

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