ばかって言う君が好き。

「お仕事お疲れさま。」

「……お疲れさま。倫子は優しいなあ。」

「そうかな?」
 彼が優しく私の頭をなでる。

「うん。俺の癒し。」

「変なの。でも私もね、この腕枕が癒し。」
 彼の腕に左手で触れた。

「そんなに好き?」

「うん。大好き。」

「ふーん、じゃあさ。」
 彼は撫でる手を止めた。

「腕枕これからもずっと俺にさせてくれる?」

「え、いいの?いいの?お願いします。」
 自分でも目がキラキラしていることが分かるぐらい、彼の言葉は魅力にあふれていて、私はぺこっと頭をさげた。

「…意味わかってないね。」

「ん?腕枕でしょ?」
 私の返事に彼はため息をはぁとついた。

「あーもう倫子の天然、ばか、あーほ。」
 私の方に向けていた体をよそに向けていじけた彼。

「え?え?」

「だから!」
 振り返った彼は耳までほんのり赤い。

「なんで照れてるの?」
 きょとんと私は尋ねた。

「あーもう!」
 彼は私を勢いよく抱きしめる。


ぼそぼそっと本当に本当に小さな声で
10文字程度の言葉を。

彼はすぐに離れて、またよそを向く。
私は私でいっぱいいっぱいで、何が何だかわからなくて。

「……直人、もう1回言ってくれない?」
 なんて、、無茶ぶりを…

「はー?」
 案の定、若干呆れた様子の彼が振り返ってきた。

私は手で顔を覆って、隙間から彼の顔をのぞく。

「倫子の返事聞いたら。
……で?」
 詰め寄る彼。

「えっと…。」
 なんて言えばいんだろう。

ドラマじゃセリフなんかなかった。
なんでセリフなかったんだろう、あったら勉強になったのに!

「やっぱりおあずけ?」
 黙ったままの私に彼はおずおずと弱気に聞いてくる。

なんか言わなきゃ、早く、はやく。
でも言葉は全然でなくて。

だから、だから

手をはずして、


私は指でその答えを―――

ドラマの中の主人公のように、口元を緩めて。

< 145 / 165 >

この作品をシェア

pagetop