ばかって言う君が好き。

「あれ?鍵どこにしまったっけ?」
 ドアの前でせわしなく彼がポケットを確認し始めた。

「ズボンの右ポケットじゃないの?」
 焦った様子の彼をよそにから返事をして、私は塀から顔を少し出して下をのぞいた。

「倫子ちゃん、鍵の心配が先じゃない?」
 私の前ににょきっと顔をのぞかせた彼。

「ごめんなさーい。」
 笑いながら返事をして、私は手探りにかばんから鍵を見つけた。

「私が持ってました!」
 チャリンと彼に見せた鍵。801号室。

「じゃあ家に入りましょう。」
 コツンと私の頭を指で叩いて、彼は鍵を受け取った。

「下覗くの怖くなかった?2階もあがってるのに。」
 ガチャと鍵を回した。

「公園見たいんだもん。」


「「ただいま。」」

「「おかえり。」」
 少し広くなった玄関。一つ部屋が増えた間取り。

ずっと使い続けてきたテーブルと、彼のソファ。私のと彼とのが混ざり合って、私達の家。

「それにしてもまさか借りなおすなんて、
今でもびっくりだよ。」
 靴を脱ぎ終わった私達は部屋に入り、買い物袋と鞄をおろした。

「同棲はじめて最初の頃、倫子狭くない?嫌じゃない?
って間取り気にしてたみたいだから、どうなんだろうって思っててね。

階は違うけど同じ位置なら、少しは慣れてると思ったし。」
 両親のところへあいさつに行く前、彼は引っ越さないかと急に相談してきた。差し出してきたパンフレットを見て驚いた。

それは彼が住んでいたマンション8階。

前の部屋の上の上。
同じ位置で開いていたのはそこだけらしく、倫子がいいなら、住んでいたアパートの契約を今月で終わらせようとのことだった。

突然のことに私はひどく驚いて、腰をぬかす勢いだったけれど結局彼の気遣いに甘えた。

会社から少し遠のいてしまったけれど、いつもの道を通って通うことが無茶な距離ではない。住み慣れたアパートを離れ、最初は戸惑いも多かったけれど、直人の思惑通りすぐに慣れた。

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