ばかって言う君が好き。

歩き出した私たち。

「花火見たことある?」
「お腹減ってる?」
「今日楽しみだった?」
 聞きたいことは山ほどあるのに、他の人の声が邪魔をして、言葉をうまく交わすことができないまま。

前を歩く彼のスニーカーは、サッサッサッと音をたてて、後ろを行く私の下駄は、カランカランと不器用に鳴る。

ただ今は、遅れてしまわないように…。


そう思っていたのに、

「たこ焼きだよ!あっつあつのたこ焼きだよ~!」
 と聞こえてきた、ひときわ大きな声と美味しそうな匂いに、私は目を奪われてしまう。

あ~いい匂い、
私もたこ焼き食べながら見たいなぁ。


「倫子、ついてきてる?」

「あ!ごめん!」
 すっかり屋台に気を取られていた私は、彼との間に距離ができていたことに気が付いて、あわてて駆け寄った。

「はぐれたら大変だからね。」
 彼は微笑みながらそう言った。

けど、私と目を合わないまま。
人が多いなあと小言を漏らして、辺りをキョロキョロしながら。

「本当だね。」
 そう言う私も、ちらっと彼に目をあわせる程度なのだけれど。

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