ばかって言う君が好き。

 歩くのも面倒になって、空き地の塀に腰かける。

ズボンのポケットから携帯を取り出して、開くトーク画面。私が朝送ったメッセージに返事をくれたのは、送ってから約5時間後。

最初は分単位で返事しあってたのに、今ではすっかり時間単位。
返す気になれなくて、放っておいたLINE。彼よりもかなり時間をあけてメッセージを今送る。


『お疲れさま。
連絡無理しなくていいからね。私もがんばります。』

「しらじらしいなあ~」
 本心とは正反対の言葉に、私はふふっと笑ってしまう。


 トーク画面をずっと見返していく。
お互い余裕があった頃の、彼とのやりとりとか。

『大好きだよ。』

『俺も大好き。』
 ばかみたいに送りあってる、その言葉。

直人はちゃんと毎回、「俺も」じゃなくて「俺も好きだよ」って言ってくれてうれしかったっけ。

「はあ。」
 携帯を少し見るのをやめて、空を見上げる。
生憎のくもり、星はすっぽり雲の中。

空は繋がってるから、どっかで見たそんな言葉。

繋がってるけどさ、つながってるけど、つながってるけど、だから、えっと、えっと。

「帰るか。」
 考えるのも嫌になって、塀から降りて来た道を戻る。

携帯ももうしまって、音楽でも聴こう。彼の事ちょっと忘れよう。
そう思って、トーク画面を閉じようとする。

「あ。」
 でも変なところに当たって、一気にまた履歴をさかのぼらせてしまう。

9月12日
そう示された日付。

ちょうど1年前。
今の私が羨ましくて仕方がないころの私だった。

いいなあ、私いいなあ。
おかしな話だけれど、そう思ってるのは事実で。

だけどそこで、

「……なんだあ。」
 私は気づいてしまう。


9月12日から一気に

日付は、


19日。


『ごめん、忙しいわあ。』
 そんな彼のメッセージに

『お疲れさま、おかえり。
気にしないで。』
 1年前の私もそう送ってた。


ガタンガタン―――通り過ぎた電車がパアーンと音をならした。

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