ばかって言う君が好き。

「…あ。」
 彼は腕時計を見て、何か思い出したかのように言葉をこぼした。

「ごめん、会社に連絡しないといけないことあった、ちょっと携帯つつかせてもらもらってもいい? 」

「いいよいいよ!
ちょっと隅にはけようか。」
 道から外れて、 人があまりいない木の下に移動する私達。

「ちょっと電話してくる!」
 電話の妨げにならないよう、彼はもっと奥へはけていく。

見えなくなるまで彼の後姿をぼーっと眺めて、 足元に落ちていた小石を蹴とばした。
コロコロと転がっていって、視界に残るのは裾からのぞいた自分の足だけ。

白と桃色の下駄。
紺色の桃色の花がちりばめられた浴衣に合わせて買った。

はくのを楽しみにしていたけれど、下駄も浴衣も少し後悔。
やっぱり普通の服にするんだった、動きづらいや。

私はまた足元の石を蹴った。


ピンポーン
かすかに聞こえてきたその音。

ん?私も会社からかな。
巾着袋から、携帯を取り出した。

相手の名前に私は少し驚く。


え、直人?


『ごめん、思った以上に浴衣姿が似合ってて普段みたいにできないです。 』


もう。
私は照れくささから、手で顔を隠した。


「たこ焼き食べながら、花火どうかな…?」
 今度は文面じゃなくて、直接聞こえてきたちょっぴり照れた声。


おかしくておかしくて、

「あのね」
 隣に来た、彼への耳打ち。


「私もそう思ってた。」

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