【B】きみのとなり
……嵩兄……。
汚い字で書かれた紙切れを無意識で握り閉めちゃったアタシは
慌ててその紙切れを開く。
兄貴の連絡先の携帯番号、とっとと携帯に登録しなきゃ。
後……パスワードだね。
ややこしいマンションなんだからっ。
握りしめてた携帯に兄貴の連絡先をとっとと登録すると、
テーブルに置かれた鍵にそっと触れる。
やっぱり……こうなると……これは合鍵作るっきゃないよね。
しかも病院、マズっちゃったし……。
嵩兄、居ないならストレス溜めてまであっこに居る必要ないわけだし、
あっち辞めるかっ。
んで兄貴の病院で働けばいいじゃんアタシ。
技師の仕事選んだのも兄貴手伝いたかったからだし。
うん、そうだよ。
全部兄貴が悪いんだから兄貴に責任取らせばいいじゃん。
暫らく見つめた携帯の不在履歴から、
病院の電話番号を呼び出して通信ボタンを押す。
暫らくすると声も聴きたくない上司の声が耳に届く。
喧嘩になる前に……とっとと『退職』する旨を伝える。
まっ、先月から職場のストレスで結構ヤパヤバな状態だったのも知ってるし、
あっさりと『退職届』を持ってこいって言われた。
嵩兄の部屋を出て絶句。
兄貴アンタなんでこんなとこ住めてんのよ。
やっぱ……このマンション、どう考えても兄貴の甲斐性じゃ無理だって。
エレベーターで一階まで降りたアタシはホテルも真っ青なエントランスを通って、
受付嬢が微笑むフロントを通過する。
「行ってらっしゃいませ」なんて見送られながら。
最初はびびったけど開き直れば何でもない。
快適すぎるマンションじゃん。
これからのアタシの住処には最適最適。
マンションを出て鍵をかけるとコンビニに便箋と封筒を購入すると、
車の中で『退職届』を作成。
次に合鍵を作ってタクシーで病院へ。
早々に手続きとって退職の挨拶して寮から荷物引き払って兄貴の家へ。
荷物って言ってもアタシが使ってた家具とかは寮の備え付けのものだし、
Mac・布団・洋服・本くらい。
早々に寮の近所のスーパーから調達してきた箱に詰めると、
兄貴のマンションに荷物を持って転がり込む。
あんだけ広いマンションだし、アタシの部屋も余裕であるし何もかも全部兄貴が悪いんだから、
兄貴が責任取ってくれたって罰当たんないよね。
とりあえず勝手に決めた兄貴のマンションのアタシの部屋に荷物を運び込んで、
荷解きを終えると適当に買い揃えて来た衣装ケースの中に詰め込んで部屋の片隅に。
Macも小さなテーブルの上にセットして準備OK。
本は元々から保存用の袋に入ってるから、そのまま片隅に放置。
勢いで一気に荷物を片すとアタシは夕飯の準備にかかる。
とりあえず肉好きの兄貴だし今日は焼肉で決定。
材料だけ適当に切りそろえてお風呂の準備も早々に終えて、
ボーっとしてTVを見て過ごす兄貴の帰宅前。
19:30少し回った頃、鍵を解除される音が聞こえる。
慌てて玄関に迎えに出るアタシ。
「おぉ、氷夢華。
まだ居たのか……ゆっくり出来たか?」
帰って来たばかりの兄貴はドシドシと入ってきて近付いてくる。