【B】きみのとなり
「なぁ、氷夢華……今度、出掛けていいか?
時任……、ほらっ、夏のデートの時に話しかけてきた奴居ただろ。
アイツな、時任夏海って言って、J医時代の同期なんだよ。
オレが教授に蹴りくれた事件のきっかけになった奴なんだけど……、
あの後、アイツの親父さんがすい臓の末期でケアセンターに来て、
暫く一緒に過ごしてた。
アイツは患者の家族だからな。
んで峠でお前を抱いた日の早朝、時任の親父さんは息を引き取った。
んで今日、会いたいってケアセンターで言われたんだ。
アイツ、ボランティアに登録して手伝いに来ててさ」
オレには氷夢華しかいない。
そんなこととっくにわかってる。
「親、失って孤独を一番感じやすい時間だからな」
そう……オレだって、おふくろを失って一ヶ月ほどした頃が一番つらかった。
そんなオレを支えてくれてたのが住み込みで雇ってくれた居酒屋の夫婦だったり、
大学でつるんでた時任達だった。
「いいよ。行ってきなよ。
んでちゃんと兄貴もケジメつけて来てよね。
アタシは家で待ってるから。
それに亡くなった時任さんだっけ?患者さんにも手を合わせたいでしょ」
そう言うと氷夢華は椅子から立ち上がって、
オレの携帯を手にしてオレに握らせた。
「ほらっ、早く連絡してあげなよ。
待ってるんでしょ。
それにアタシだって、何時二人で会うのかモヤモヤして過ごすより、
目の前で予定組まれた方がストレス少ないからさ。
なんだったら今から出掛けてきなよ。
アタシは、レンタルで借りてきた映画でも見て待ってるからさ」
そう言うとアイツは、オレの携帯を再び手に取って、
電話帳を呼び出すと、時任の名前を表示させて発信ボタンまで押してオレに手渡した。
何コールかの後、電話の向こうから『もしもし、嵩継君……』っと、
時任の声が聞こえた。
「んじゃ今から、行くよ。
んで、何処に行けばいい?」
時任と約束を取り付けた後、オレは慌てて食事を終えて玄関から飛び出した。
そんなオレを見届ける様に見送ったアイツは、
またリビングへと戻っていった。
地下駐車場へと降りて乗り込むのは通勤用の車だ。
車に乗り込んで待ち合わせの駅へと向かう。
この場所から、30分ほど走ったところにある駅のロータリーに車を寄せると、
時任はオレを見つけて駆け寄ってきた。