【B】きみのとなり
「よっ」
「嵩継君、ごめんね。
時間貰って」
「別にいいって。それより親父さんお参りさせてもらってもいいか?」
そう言うと、時任は静かに頷いた。
時任に言われるままに車を走らせること五分。
こじんまりした小さなアパートの前で車を停めた。
「どうぞ」
促されるままにアイツの自宅らしき場所へと、
オレは足を踏み入れた。
部屋に灯りを灯した途端、ワンルームの正面には骨壺が置かれた祭壇だけが、
遺影と共に置かれていた。
後は生活感のかけらも感じられない古びた部屋。
静かに祭壇に手を合わせると、オレは昔を思い出した。
最初の頃なんて、オレもこんなもんだったな。
「んで、お前、これからどうすんだよ」
「うん……。
ねぇ、嵩継君……私たち、どうして大学時代に付き合えなかったのかな。
あんなに近くに居たのに……」
あんなに近くに居たのに……かっ。
あの頃のオレは、人なんて見てなかったからな。
「あの頃はオレも今のお前みたいに孤独を強く実感してた。
オレは人と接することよりも、手に職をつけるのに必死だった。
でも今だから言えるのは、あの頃もオレは大勢の人に助けられてたよ。
もちろん、時任も含めて。
けど……オレは時任のパートナーにはなれない。
時任に出会う前からオレを支え続けてくれてる大切なやつがいるから」
「隣にいたあの子でしょ。
ショッピングセンターで出逢った。
それに病院でも一緒に働いてたのね。
何度か、鷹宮で見かけたわ」
「彼女はここに嵩継君が来てるの知ってるの?」
時任はオレに投げかける。
「あぁ、氷夢華が送り出してくれたんだよ。
ちゃんと行ってこいってさ。
じゃないと、オレはまだ迷ってたよ」
そう、ずっと迷ってグルグル空回りしてただろ。
「なら私、惨敗じゃない。
入る隙なんてないじゃない。ごちそうさま」
そういって、時任は寂しそうに笑った。