【B】きみのとなり


「兄貴……話があるんだけど」

「どうした?」

「とりあえず飯くいなよ。風呂入ってさ」


兄貴にとっとと風呂に入らせて、
その間に冷蔵庫から肉やら野菜やらを出してテーブルに並べていく。


兄貴のビールとアタシのビールも忘れずに風呂上り早々、
テーブルについた兄貴に一言。



「兄貴、アタシ此処に引っ越してきた。
 今朝寝てた左隣の部屋、アタシの部屋にしたよ」



アタシがついでやったビールを零しそうになる兄貴。


「氷夢華……お前」

「行くとこなんて兄貴のせいでないんだから」

「氷夢華?」

「職場、今日仕事行けなかったから解雇されたんだよ。
 寮だから解雇されたら居られないしさ。

 あの狭い実家なんて、もうアタシの部屋何処にもないし。
 ここしか居場所ないから。

 後、兄貴の病院……再就職先に紹介してよ。
 アタシの技師としての腕前は昨日兄貴に見せたしさ。
 
 J医付属でも結構有能だったし兄貴と一緒に仕事したいから。
 
 兄貴が居なくなったあの時から、その為だけに頑張ってきたんだ。
 だから決定。
 こうなったのは何もかも全部兄貴が悪いんだからさ、責任とってよねっ。

 兄貴……んじゃ深刻な話はここでおしまい。
 せっかく兄貴の為にお肉買ってきたんだから食べようよ。

 じゃないと……肉、不味くなっちゃうしさ」



鉄板の上で焼けた肉を兄貴の皿にポイポイっと放り込む。

重い空気が流れる食卓。



早々に食事を終わらせて後片付けして自分の部屋に引きこもり布団に潜り込む。



なんだよ兄貴。
いいじゃん……別にこれくらいさ。

嵩兄がずっとアタシにしてきたことに比べればさ……。



やっと見つけた……あの日失くしたアタシにとっての光の射す場所、
アタシが望んだ居場所を見つけたんだから。



あの日……アタシが、
どれだけ辛くて苦しい時間を過ごしたなんて全く気が付きもしない。

そんなヤツがアタシにとっての大切な宝物。


もう手放さない。
逃がさない。



今度はアタシの前から黙って消えさせないんだから……ずっとずっと傍にいるんだから。




……嵩兄……。
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