【B】きみのとなり
2.プロポーズ 後編 -嵩継-
氷夢華と過ごし始めて一年以上。
アイツは……あの後も、小悪魔であり続けた。
オレだけの小悪魔で居てくれ。
確かに、そう頼んだが……目のやり場に困る行動はするは、
天然行動でオレを振り回しながら、楽しんでやがる。
だけどそうやって、オレを振り回す優しさに、
アイツのメッセージは込められてる。
アイツが傍に居てくれるだけで癒されて、
日々の活力にも繋がっていた。
結婚するまで我慢しようと思っていた割には、
最初の決意も虚しく、たびたび、アイツを抱いた。
歯止めがきかなくなって抱いた夜。
患者がなくなってぽっかりと空いた穴を埋める様に、
アイツを求めた夜。
その度に、アイツはオレを優しく受け止めてくれた。
オレがアイツを守るって決めてたんだけどな、
いつの間に、オレがアイツに守られるようになってんだか……。
だけどそんな時間も満更でもない。
そうやって何度もアイツを抱きながらも、ガキが生まれなかったのは、
残念だと思う気持ちと共に安堵した。
どれだけコンドームをつけて重ねていたとしても、
コンドームも絶対じゃない。
いつガキが出来てもおかしくない時間を過ごしていた事実は変わらない。
だけど……アイツの為にも、アイツの両親の手前、
出来ちゃった婚って言うのは、世間体が悪い気がして、ホッとしているオレ自身が存在した。
11月になって頃、様子見がてら海斗のおふくろさんの店を訪ねる。
海斗を慕って店を継いでくれた板前さんは四か月前に結婚式を挙げていた。
「嵩継君、氷夢華ちゃんにプロポーズはしたの?」
ふいに、おばさんがオレに話しかける。
「いやっ、まだです。
プロポーズって言われてもきっかけがなくて。
なんか氷夢華の両親への挨拶も済んでますし、
きっかけらしいきっかけがなくて」
オレの本音が零れる。
オレ的には今も一緒に住んでいるだから、
役所に婚姻届と言う紙切れ一枚書いたら終わり。
そんな感覚もないわけじゃなくて。
「プロポーズ代わりに、婚姻届けでもわたしゃいんですかね」
そう呟くオレ。
すると二人の視線は、鋭くオレに刺さってくる。
「嵩継君、入籍も結婚もそんな簡単なものじゃないのよ」
「そうですよ。
俺の時も、大変だったんですよ。
半年以上、準備もかかりましたし。
けど……想い出には残りましたよ」
その日を境に、オレの脳裏にはプロポーズの文字がチラチラとチラついていく。
とりあえず当初思いついた通りに、役所に婚姻届の用紙を貰いに出掛けて、
オレの名前を記入した。
そして婚姻届を握りしめて鷹宮の屋敷を訪れる。
雄矢院長はオレを暖かく迎え入れてくれて、リズ夫人と祝福してくれた。
アイツの名前が記入されていない用紙の証人署名欄に、
雄矢院長が名前を書き込んでくれた。
そんな婚姻届は、今もオレの鞄の中で眠っている。