【B】きみのとなり


何時ものように仕事をしながら、ケアセンターにボランティアに来ていた時任を捕まえる。

あの一件があってからも、氷夢華公認で時任とは、言葉を交わす仲だ。

氷夢華に至っては、二人だけで出掛けてはオレの愚痴を吐き出せるほどに、
時任とは親しくなっていた。


そんなアイツだから、尋ねられることもある。


「時任、婚姻届は準備してるんだが……
プロポーズのきっかけってどうしたらいんだ?」

「ったく、嵩継君はホント恋愛能力ゼロだよね。
 そんなに気にしなくても構えなくても、氷夢華ちゃんなら喜んでくれるわよ。

 そうね……婚約指輪は用意してるの?」


時任の言葉に、今だ指輪すら用意できてない現実を実感する。


「指輪って必要なのか?」

「バカなこと言ってないで、今日にでも買いに行くわよ」


その日の仕事の後、時任に強引に連れ出されたオレは、
人生初のジュエリーショップへと足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ」

「えっと、婚約指輪を探しています。
 見せていただけますか?」

「それは、おめでとうございます。
 どうぞ、ごゆっくり」


そう言うと、ガラス越しに時任は指輪を見ていく。

その隣でオレも指輪を見るものの、
指輪は指輪であって、その価値がわからない。


「嵩継君、これ。

 指輪の一番人気は、ソリテイアね。
 婚約指輪の王道デザイン。

 ダイヤモンドを一粒だけセットしたリングよ。

 んで次は、メレ。
 メレはダイヤモンドの美しさが際立つデザインなの。 

 最後が、エタニティね。
 同じ大きさでカットされたダイヤモンドが並んでいるでしょ。
 それによって、永遠の愛を象徴しているって言われてるの。

どれか、気になるのある?

 ちなみにアタシの指輪は、エタニティよ」


そういって、時任は指輪を幸せそうに見せてくれた。
オレたちが進展ない時間に、時任はもう婚約してたんだな。



ソリティア・メレ・エタニティ。
そういって教えられた、ショーケースの指輪たち。


氷夢華の指を思い浮かべながらじっくりと並んでいる指輪を見つめて、
オレは「すいません、これを」っと店員に声をかけた。



オレが選んだデザインは、メレと言われる形だった。

購入が決まった後も、指のサイズの聞かれて大変。

オレ一人だと対応出来ずにいたらしい指のサイズは、
時任の助け舟で早々に解決した。


その場で購入して、小さな紙袋を手にオレは自宅へと戻った。


指輪を購入して三日後の夜。
オレは、一人で橘高家を訪ねていた。

オレを迎え入れてくれたアイツの両親の前で、
クリスマスイヴに正式にプロポーズしようと思っていることを伝えた。


そして……一緒に婚姻届も手渡したいと思っていること。


アイツの両親もまた喜んでくれて婚姻届けの証人署名欄の二人目に、
アイツの親父さんの名前が書き加えられた。


慌ただしく水面下で準備をしながら迎えた約束のクリスマスイヴ。


事前に理由を話してシフトを交代してもらっていたオレは、
午前中に仕事を切り上げて、マンションへと戻る。


今日はオンコールに入らないように協力を取り付けてきた。

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