【B】きみのとなり
車をマンションの駐車場へととめて、自宅のドアを開ける。
キッチンでは、氷夢華が「あぁ、やっちゃったぁ~」なんて言いながら、
ケーキの準備をしているみたいだった。
「氷夢華、ケーキ作ってくれてたんだな」
「そうそう。
たまには頑張ってみようかなーって。
でも生クリームのデコレーション、難しすぎるわ。
ごめんね。
こんなにグダグダで。
やっぱ、綺麗なケーキ買ってこようか」
そういって、手をとめる氷夢華。
そんなクリスマスケーキの傍に行く。
「おぉ、うまそうじゃん。
ってか、お前……良く作るよな。
少し摘まんでいいか?
とりあえず、手、洗ってくっからその後、摘まむぞ」
そう言いながら洗面所へと向かって、手洗いを済ませると再びキッチンへと戻った。
氷夢華は再び、完成を目指してデコレーションの続きをしてる。
そんなアイツが格闘しているケーキから、デコレーションされた苺をつまむと、
まだボウルの中の生クリームにつけて、パクリと口の中に放り込んだ。
「ったく、兄貴。何食べてんのよ」
なんて少し機嫌悪くなるアイツ。
「おぉ。うまいぞー」
わざとらしくいいながら、自室へ退散していくオレ。
夕方からの外出に備えて、オレは少し仮眠をむさぼった。
仮眠から目覚めたのは16時頃。
本当はもう少し早く起きるはずだったんだがな……。
時計に視線を向けて、ため息を吐き出す。
ベッドからのそのそと這い出すと、
着替えを済ませてリビングへと顔を出した。
氷夢華はまだルームウェアのまま、レンタルで借りて来たらしい映画を楽しんでいるみたいだった。
「氷夢華、出掛けられるか?」
「えっ?何処か行くの?
だったら兄貴、自分だけ準備する前にアタシにもちゃんと言ってよ」
そう言うとソファーから慌てて立ち上がって、
自分の部屋へと駆け出していく。
部屋と洗面所を慌ただしく往復した後、
着替えを済ませて出てきたのが20分後。
ポケットの中に忍ばせた婚約指輪と婚姻届の封筒を時あり意識しながら、
オレは仕事用の車の運転席へと乗り込んだ。
「あれっ、兄貴。
仕事じゃないのにこっちなんだ」
不思議そうな表情を見せながら、オレのBMWに乗り込む氷夢華。
氷夢華が乗ったのを確認して、オレはディナーのホテルへと車を走らせた。
ディナー先の提供は、例にたがわず飛翔のお膳立てだった。
徳力系列のホテルのエントランスへと車を停めると、
鍵を預けて最上階のレストランへとエレベーターで上がっていく。
今回も伝家の宝刀でもある徳力関係者パスを見せると、
「お待ちしておりました。安田様……」っと、
支配人がすぐに顔を出して、オレたちを奥の個室へと招き入れてくれた。
「ねっ、兄貴……これって、また早城効果?」
「……みたいだな」
そんな会話をしながらも、チラチラと氷夢華へと視線を向ける。
順番に食事が運ばれてきてアイツの笑顔を見ながら過ごし続けた約2時間。
デザートを食べ終えて食後の珈琲を飲んでいる時に、
オレは再び、ポケットの中に忍ばせてあった指輪へと手を伸ばした。