【B】きみのとなり


「氷夢華……」

「何?兄貴?
 美味しかったねー」


満腹満腹と言うように、お腹に手を触れるアイツ。



「氷夢華、受け取ってくれるか」



そういって、思い切ってアイツの前に指輪を差し出した。
次の瞬間、アイツの瞳から一筋の涙が零れ落ちる。




「なぁ、家族になってくれるか……」



最初のアクションが、小悪魔で居てくれ。

次のアクションが家族になってくれって……、
何言ってんだ。

なんで、もっと気の利いた言葉が出てこないかなーっと、
僅かに自己嫌悪に陥る。



「……バカっ……。
 遅い、兄貴っ!!

 ずっと待ってたんだから……」



アイツは泣きながらそう言うと嬉しそうに笑いかける。


「嵩継……結婚して。
 アタシをちゃんと奥さんとして、兄貴の家族にしてください」



嬉しそうにオレに言ってくれた氷夢華の指に、
その場で婚約指輪をはめた。


キラキラと輝くダイヤモンドに、
アイツは嬉しそうに口づけをした。


「後は……これな」


そういって婚姻届を差し出す。


婚姻届には提出日とアイツの名前の記入箇所以外は、
全て記載された後だ。



「明日、役所に出しに行こう」



アイツは、そう言ったオレの顔をじっと見つめたまま
ゆっくりと頷いた。




人生最初で最後のプロポーズの夜は、
アイツの嬉し涙と共に過ぎて行った。
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